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第14回 生越文明さん

写真と出合い、趣味以上の生きがいと呼べるものを手に入れたことで毎日が挑戦の連続です

写真と出合い、趣味以上の
生きがいと呼べるものを手に入れたことで
毎日が挑戦の連続です

多発性のう胞腎(ADPKD)と診断されてから20年。現在は腹膜透析を導入している生越さんは、趣味以上の、生きがいと呼べる大切なものを見つけたことで、写真家という新しい道で精力的に活動しています。一定の制約の中でも、果敢に挑戦を続ける日々について伺いました。

多発性のう胞腎(ADPKD)と診断されてから20年。現在は腹膜透析を導入している生越さんは、趣味以上の、生きがいと呼べる大切なものを見つけたことで、写真家という新しい道で精力的に活動しています。一定の制約の中でも、果敢に挑戦を続ける日々について伺いました。

病気によりサラリーマン生活をリタイア、しかし夢中になれるものを見つけた 病気によりサラリーマン生活をリタイア、しかし夢中になれるものを見つけた

「Within 8 hours」――これは、生越文明さんが開催している写真展のタイトルです。直訳すると“8時間以内”。腹膜透析を導入している生越さんにとって重要な意味を持ち、透析と透析の間の、自由に活動できる最大の時間を指しています。
自動車のエンジニアだった生越さんがADPKDであると診断されたのは、今から20年前のことです。会社の健康診断で腎臓にのう胞が見つかったことがきっかけでした。
「聞いたこともない病名だったし、両親や兄弟、親戚の中にも腎臓が悪かった人はいませんでした。当時は自覚症状もなく、寝耳に水の状況で、非常に混乱したことを覚えています」と生越さんは当時を振り返ります。
インターネットも普及していない時代、書店に走り片っ端から医学書を調べ、『最終的には透析に至る場合も』という一文を見つけ、ショックを隠せなかったそうです。しかし、当時はクレアチニン値などの数値に何ら異常はなく、自覚症状もありませんでした。医師からは食事や運動のアドバイスをもらい、10年以上は年に1度の血液検査のみで、特に問題のない暮らしが続きました。
「麺類を食べてもスープは飲まないようにしたり、料理にはだし汁を効かせて塩分をカットしたりするなどの工夫は行っていました。また、主治医から腹部に衝撃があるような運動を避ければ、体を動かすのは良いことだと言われ、毎日ジョギングをし、ジムにも通いました。患者会で、腎臓の肥大でお腹が膨らんで見えるのを抑えるために腹筋を鍛えているという人の話を聞いたので、私も腹筋運動には特に力を入れていました」

しかし、2010年の血液検査でクレアチニン値が1.9mg/dLまで上昇していることが分かり、『いよいよか』という思いが頭をよぎります。2012年にはのう胞感染による入院を余儀なくされ、エンジニアとしての職をリタイアしました。アドバイザーという立場で、不定期で後進を育てる仕事に変わることになったそうです。
「自動車エンジニアとして頻繁にドイツに出かけることが多かったため、今後ADPKDと仕事を両立していくことは難しいと感じました。サラリーマン生活に終止符を打つという決断は非常に大きなものでした。しかし、実はこの頃、私には夢中になれるものが一つありました。それが、写真を撮ることです」
2007年に結婚し、新婚旅行で訪れたイタリアで街並みを写真に収めていた時に、これまでに味わったことのないような楽しさを感じたと生越さんは言います。それから、わずか1年足らずでフォトコンテストで1位を獲得し、写真の魅力に憑りつかれることになりました。趣味以上の、生きがいと呼べるものを手に入れたことが、ADPKDと正面から向き合い、病気に負けないモチベーションを持つことにもつながったと言います。

Within 8 hours―― 不自由な暮らしの中で、その制限を楽しむ Within 8 hours―― 不自由な暮らしの中で、その制限を楽しむ

2016年3月から、生越さんは透析の導入を開始しました。 「ついに透析に至ってしまったというショックはありました。主治医から血液透析と腹膜透析のどちらかを選べると言われて、私は自分の生活に合う方を医師と相談し腹膜透析を選択しました。通院は月に1度程度で、あとは自宅で過ごせています。もちろん、写真撮影も毎日精力的に行っていますよ」
とはいえ、腹膜透析では透析液のバック交換を6~8時間ごと、1日4回程度(朝、昼、夕方、寝る前)行う必要があるため、その都度自宅に戻らなければなりません。写真撮影に出掛けても、一定時間が過ぎれば一度中止しなければならないのが厄介だと言います。
「血液透析よりは時間的拘束が少なくて済んでいますが、写真の撮影に1日中出掛け続けられないのがもどかしいですね。夢中に撮影していて、時間ぎりぎりになって慌てて帰ることもあります。

今回の生越さんの作品はどれも、光と陰のコントラストが印象的です。「自分の生活に厳格な制限が始まった時から、いつしか光と陰を追い求めるようになりました」
作品の中で、「陰」は病気に対する不安や透析治療による制約を、「光」は生きるための希望、自由、夢を表現しているそうです。「私には撮影時間や撮影場所に縛りがあります。さらに使用するカメラやモノクロ写真という撮影方法に関して自ら縛りを加えています――私の作品はたくさんの制限の中で完成しているのです。これは私そのものであると同時に、良い作品を創り出す原点でもあります。写真は制限があるほどうまくなる、私はそう信じています」

腹膜透析を導入していても、遠方への撮影旅行はできる 腹膜透析を導入していても、遠方への撮影旅行はできる

現在は透析導入前と同様に塩分や乳製品の節制など食事には気を配っていますが、ジム通いやジョギングは止めたそうです。あえて運動の時間をつくらなくても、撮影で街を歩き回り、程よい運動ができているためです。
「透析患者にとっては体重管理=水分管理となり、夏場の撮影では水分摂取に気を遣いますね。飲み過ぎるのも良くないですが、節制しすぎると熱中症の危険もあります。そのため、毎朝体重を測り、増えていた場合はその日の水分摂取を抑える、減っていた場合は多めに飲むなど、管理を徹底しています」
2016年の秋には、函館への撮影旅行にも出掛けたという生越さん。腹膜透析を行っていると自宅から遠くには離れにくいものですが、透析用の器具を旅先に持っていけば、ホテルを拠点としながらも遠方での撮影に挑戦できることが分かりました。

「今は自宅近くの風景を主に撮影していますが、今後はどんどん遠方へ撮影に出掛けたいと思います。近々、私の写真の師匠がいる長崎も尋ねる予定です。サラリーマン時代に何度も訪れたドイツにも行きたいですね。ドイツの街並みは、どんな季節も絵になります」
写真家としての活動を本格化させ、現在は写真に文章を添えたフォトエッセイの出版も視野に入れているそうです。「Within 8 hours」の中で、生越さんは新しい夢にまい進しています。

ADPKDと診断された患者さんへのメッセージ

病気が分かったからといってクヨクヨしていても、何かが変わるわけではありません。それよりも、夢中になれることを見つけて、どんどん挑戦するのがよいと思います。私の場合は間に合いませんでしたが、ADPKDの新しい治療も生まれていて、やりたいことをやり続けるチャンスはいくらでもあります。私も今、もっともっと写真がうまくなりたいと思っているところです。

病気が分かったからといってクヨクヨしていても、何かが変わるわけではありません。それよりも、夢中になれることを見つけて、どんどん挑戦するのがよいと思います。私の場合は間に合いませんでしたが、ADPKDの新しい治療も生まれていて、やりたいことをやり続けるチャンスはいくらでもあります。私も今、もっともっと写真がうまくなりたいと思っているところです。

2017年2月作成
SS1703074

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