腎臓の「遺伝性の病気」のいろいろを知ろう

[監修]東京女子医科大学 血液浄化療法科 特任教授 土谷 健 (つちや けん)先生プロフィール

腎臓に障害が生じる「遺伝性の病気」腎臓に障害が生じる「遺伝性の病気」

全身が主で腎臓も障害される病気

腎臓組織に障害を起こす病気の中には、多発性嚢胞腎以外にも「遺伝性の病気」があります。

「結節性硬化症(けっせつせいこうかしょう)」や「ファブリ病」などは、全身が主で、腎臓も障害される遺伝性の病気です。

「結節性硬化症」は、腎臓をはじめ、脳、皮膚、心臓、肺など全身のさまざまな臓器に良性の腫瘍ができます。

TSC1あるいはTSC2遺伝子の異常で起こります。一部の患者さんでは、多発性嚢胞腎を合併することもあります。

親からの遺伝で発症するケースが3分の1、遺伝子の異常が原因で発症するケースが3分の2といった割合です。

「ファブリ病」は、細胞の中の酵素が低下することによって細胞の働きがうまくいかなくなり、異常な糖脂質がたまっていく病気で、全身の臓器で障害が起こります。そのうち、「腎ファブリ病」と呼ばれるタイプは、主に腎臓のろ過機能が障害されます。

病気を引き起こす異常な遺伝子は性別を決めるX染色体の中にあり、2本のX染色体を持つ女性は発病しにくいといわれています。

ファブリ病の母からは男児、女児にそれぞれ2分の1の割合で遺伝し、父がファブリ病の場合は女児はキャリア(劣性遺伝の原因となる遺伝子を持っている人)となりますが男児には遺伝しません。

腎臓の障害が主で全身的な異常も出る病気

腎臓の症状が有名ですが、実は全身的な異常も出る遺伝性の病気には、「遺伝子が原因となる病気」とはで紹介した「多発性嚢胞腎」があります。

「多発性嚢胞腎」は、腎臓の腎実質(※1)に“のう胞”と呼ばれる水分が溜まった袋がたくさんできる病気です。病気の進行に伴ってのう胞の数とサイズが少しずつ増え、腎臓も大きくなります。腎実質の量も徐々に減少していきますが、代償機構(※2)がうまく働くため、腎機能は保持されます。しかし、病気が進行し、腎実質の量がある程度まで減少すると、代償機構が働かなくなり、腎機能は悪くなっていきます。

多発性嚢胞腎は、「常染色体優性多発性嚢胞腎」(ADPKD)と「常染色体劣性多発性嚢胞腎」(ARPKD)の2種類があります。

のう胞の発症は、ADPKDでは腎臓にある尿細管という管の太さを調整する「PKD遺伝子」に異常が起こると尿細管が拡がって、のう胞になっていくと考えられています(図)。

ARPKDは「PKHD1遺伝子」の異常が原因とされており、初期には腎臓にある集合管にのう胞が発生します。

  • ※1 腎実質:尿を作る機能を担っている部分
  • ※2 代償機構:生命維持のためのバックアップ機能

腎臓病の1つにADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)という遺伝性の病気があります。腎機能を低下させる遺伝性の腎臓病について、気になる方、知りたい方はここをクリック。