ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)患者さんと医療者間における協調関係の大切さ
ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)は、腎臓だけでなく、肝臓や脳・血管系にも影響を及ぼす全身疾患です。治療経過も長く、その時々で患者さんの状態に応じた情報提供が必要となります。私は、診察時には患者さんの反応を見ながら少しずつ、そして繰り返し情報提供を行うようにしていますが、情報量が膨大なため、おそらく患者さんは一度で覚えきれないと思います。また、限られた診察時間内にお伝えしきれない内容については、時間のある時に患者さんがご自身で確認できるよう、疾患説明用の冊子を渡したり、正確な情報が掲載されているインターネットを紹介したりするなどの補足も行っています。ただ、こうした情報の多くは医療者の目線で作成されたものが多く、患者さんの抱えている問題のすべてを包括できるものではないと考えています。実際の患者さんは、もっと幅広く多彩な問題に直面されているでしょうし、それぞれに異なる不安や疑問をお持ちだと思います。大切なのは、患者さんの生の声です。患者さんには、診察時に受けた説明で理解できなかったこと、疑問に思ったこと、説明用の冊子には書かれていなかったご自身の抱える問題を、遠慮なく積極的に医療者に伝えていっていただきたいと思います。実際の患者さんの声を聞くことで、医療者は「患者さんが何を必要としているのか」を理解しますし、患者・医療者間の協調関係を構築し、より良い治療環境を追求していくことも可能となります。
ADPKD/多発性嚢胞腎診療を後押しする2つの大きな動き
これまで治療法のなかったADPKD/多発性嚢胞腎において、2014年に初めて治療薬が承認されました。また、2014年〜2015年にかけては、この新しい治療薬の誕生とも深く関連する2つの大きな動きがありました。
1つは2014年10月の診療ガイドラインの発行です。ADPKD/多発性嚢胞腎診療についての標準的な指針を示した「多発性嚢胞腎診療指針」が出されたのは2002年のことでしたが、これが新しい治療の情報をはじめとする最新の情報が盛り込まれた「エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2014」へと刷新されました。今後、このガイドラインの内容が普及していくことで、どこの医療機関を受診しても最適な治療が受けられる、いわゆる治療の標準化が進むと考えられます。
もう1つの大きな動きとしては、2014年5月に成立し、2015年1月に施行された難病の患者に対する医療等に関する法律(難病新法)に基づく医療費助成制度の改訂で、ADPKD/多発性嚢胞腎が指定難病に加わりました。指定難病に認定されたことで、ADPKD/多発性嚢胞腎の治療にかかわる医療費の公的助成が受けられ、患者さんの経済的な負担はかなり軽減されることになりました。こうしたADPKD/多発性嚢胞腎の診療の進歩を後押しする潮流は大変喜ばしいことだと思っています。
患者さんの声がADPKD/多発性嚢胞腎の診療の進歩には不可欠
ADPKD/多発性嚢胞腎における初めての治療薬は、この薬剤の効果や安全性を明らかにするための治験に参加された多くのADPKD/多発性嚢胞腎の患者さんの協力により誕生しました。今後は、ADPKD/多発性嚢胞腎の患者さんの個々の状況に応じてこの薬剤を有効かつ安全に使用していく必要があり、それこそが我々医療者に課せられた使命だと考えています。
ADPKD/多発性嚢胞腎の治療は新時代を迎えたばかりで、医師も多くの経験を積んでいるわけではなく、今後益々研鑽を積む必要があると考えています。また、ADPKD/多発性嚢胞腎の診療の進歩においては、患者さんと医師との連携も不可欠です。今後のADPKD/多発性嚢胞腎の診療をより良いものにするために、患者さんには、ご自身の不安や疑問、治療生活を送る上で直面した様々な問題を積極的に発信していただきたいと私は考えています。
成田 一衛(なりた いちえい)
新潟大学大学院医歯学総合研究科 腎・膠原病内科学分野 教授
1983年3月 | 新潟大学医学部医学科 卒業 |
1985年5月 | 同 第二内科 入局 |
1991年7月 | 米国ユタ大学 腎臓病部門 研究員 |
2002年11月 | 新潟大学大学院医歯学総合研究科 内部環境医学講座(第二内科) 准教授 |
2009年5月 | 同 第二内科 教授 |