10 患者さんを支える専門外来と健康カウンセリング外来

ADPKD診療のきっかけ

臨床試験への参加

長谷川先生

腎臓の大きな働きの一つに水と電解質の調節がありますが、私は、この水と電解質の調節に深く関連するアクアポリンや抗利尿ホルモン作用の研究を行っていました。こうした経緯がご縁となり、私もADPKD治療薬の研究会に声をかけていただきました。ADPKDを専門的に診るようになったきっかけは臨床試験といえるかと思います。

治療方針を決める鍵を探して

小暮先生

私の場合は、長谷川先生から腎臓内科全般を広く勉強してくるようにと提案していただいた虎の門病院腎センター内科への国内留学がきっかけで、ADPKDを専門的に診るようになりました。虎の門病院では、ADPKDの診療を多く経験させていただき、埼玉医科大学総合医療センターへ戻った時に長谷川先生と相談して、一緒にADPKDの診療と研究を始めました。

私は今、ADPKDの進行の早い人と遅い人でどう違うのかについて研究しています。ADPKDの患者さんは比較的若い方が多く、病気の進み方もまちまちで、早い人もいれば、遅い人もいます。早い人が事前にわかれば、より積極的な治療を行うことができ、病気の進行を遅らせることができるのではないかと期待しています。

ADPKD専門外来から広がる患者さん中心の医療

患者さんが病気を知ることの大切さ

長谷川先生

受診されるADPKDの患者さんも増え、現在は関連施設もあわせると診ている患者さんは120人程度です。他の腎臓疾患と一緒に診ていると、時間を有効に使えないということもあり、専門外来という形にしたのです。

多発性嚢胞腎の患者さんには比較的若い方も多く、同年代の方が多くなる専門外来の方が居心地が良いということもあるようです。また、ADPKDの治療では、飲水や食事管理など患者さんが積極的にかかわる部分が大きく指導が必要になってきますが、専門外来にすることにより指導の質が安定するように感じています。

小暮先生

ADPKDと診断されて間もない患者さんの場合、病気のことをあまり知らない方が多く、イメージが湧きづらいようです。ですから、まずは病気のことを知ってもらうことが大切です。なるべくわかりやすく説明しているつもりなのですが、理解するのが難しい病気だと思いますので、合併症や病気の進行などを繰り返し説明していくことが重要だと考えています。

長谷川先生

ADPKDはかつて8〜9割の方が透析に移行するといわれていました。遺伝性の病気ということもあって、以前は「治療法もないので透析が必要になったら透析しましょう」と医師から告げられることもあり、その場合、腎不全がかなり進行してから医療機関を訪れるということも少なからずあったようです。現在では、透析が必要になるケースは半数以下であり、適切な治療や生活上の注意によって病気の進行を遅らせられることも分かっていますので、病気のことを良くご理解頂く事がまず第一かと思います。


患者さんとともに進めるADPKD治療

小暮先生

専門外来を受診されているADPKDの患者さんは、病気に対する意識が高く、信頼関係は作りやすいように思います。専門外来だと患者さんから話されることもあります。ADPKDは遺伝性の病気で、ご家族のことで悩みを抱えている患者さんも多いので、そういった点は積極的に聞かなければならないと感じています。

長谷川先生

ADPKDの患者さんを長く診ていると、進学や就職などの転機に立ち会う機会がけっこうあります。タイミングによっては病気との兼ね合いが難しい場合もあり、外来中に親子げんかを始めたり、逆に泣き出されたり、厳しい場面も少なくありません。受験や就職の時期に合併症などで入院が必要になる場合は、患者さんの人生を左右することになるので、こちらもつらくなります。なるべく患者さんやご家族の話をよく聞くようにしています。聞き上手になることが診療に役立つと、この病気に関しては特に思っています。

ADPKDの診療では患者さんとの関係が大切

長谷川先生

ADPKDに限った話ではありませんが、病気の診療はいわゆる治療だけではありません。やはり医師と患者さんの関係、人間としてのお付き合いが非常に重要で、良好な人間関係が確立されていないと、治療に必要な情報ももらえません。大学病院は専門指向が強く、専門性だけで治療を完結させようと考えがちですが、医師と患者さんの関係も重要で、それを実践できているのは地域の先生だと思っています。大学病院と地域の先生のどちらが診るかというよりは、足りないことを補って一緒に診ていくことを心がけるようにしています。

ADPKD診療に臨床心理士が関わるということ

身体の病気に伴う心の問題を支援することの大切さ

小林先生

私の仕事は、身体の病気があり、心配や不安を抱えている方に対し、カウンセリングを通してサポートを行うことです。今までは、メンタルクリニックを受診して精神科医の診察を受けてから心理士へ紹介頂いていましたが、患者さんにとっては精神科への受診はハードルが高く、もう少し身近にお話ができるようにならないかと考えていました。そこに、長谷川先生が患者さんの心理的な支援を大切だと考えておられると伺い、上司と相談して、こちらでカウンセリングを始めることになりました。現在は、健康カウンセリング外来という名前で、腎臓内科の先生方から直接患者さんを紹介頂いています。

ADPKDの患者さんの中には、ご家族に透析をしておられる方がいて、透析に移行することがどういうことなのか、よくわかっていらっしゃる方もおられるように思います。わかっているからこそ病気に対する不安も大きかったり、遺伝性の病気なので、やはり家族への説明に苦慮されている方もいます。臨床心理士と話すことだけで悩みがすべて解決するわけではありませんが、悩みを受け止め、患者さん自身ができることを考える場所と時間を提供することが大切だと思います。

すべての患者さんが一度は臨床心理士と話すことが理想

小暮先生

ADPKD患者さんにとって臨床心理士が必要なのは、やはり腎不全が進行することに対する不安と家族の悩みだと思います。後者はデリケートな問題であるので、どういうアプローチで、どのタイミングでカウンセリングを勧めればよいのか、慎重にする必要があります。


小林先生

なぜ自分が心理士に紹介されたのかととまどう患者さんもいらっしゃいますので、特別ではなく、当たり前のようにカウンセリングの機会があるといいと思います。もしかすると、問題が小さいうちに解決できることもあるのではと思います。また、一度心理士に会ってお話しする機会があると、問題が大きくなった時のカウンセリングに対するハードルも下がるのではないでしょうか。

長谷川先生

患者さんが病気をどの程度受け入れておられるかということを、医師が完全に判断することは難しいと思います。ですから、すべての患者さんが臨床心理士のカウンセリングを受けて欲しいと考えているのです。特に腎臓病の患者さんには、心理的な問題を抱えている人が多いので、医師が必要だと思う患者さんにカウンセリングを勧めるのではなく、小林先生にすべての患者さんと話して欲しいと思います。種々のハードルもあり、なかなかそこまで進んでいませんが、理想を追求していきたいと思っています。

風通しのよい診療環境で患者さんをサポート

オープンな関係でのびのびと新しいことにチャレンジ

小林先生

長谷川先生に最初にお会いした時は、オープンな先生という印象でしたが、実際に腎臓内科のカンファレンスなどに入らせて頂くようになって、ますますそう思うようになりました。若い先生の話も否定せず、自由に発言できるような雰囲気がありますね。


小暮先生

当院は大学病院という性質上、治療が難しい患者さんや、まれな病気の患者さんが多く、治療に難渋するケースもありますが、長谷川先生はいつも丁寧に相談に乗ってくださいます。また、意見が分かれるような場合でも、最終的には担当医の判断だからということで、意見を尊重していただいています。研究や教育面でも親身に相談に乗っていただき、非常に面倒見のいい先生です。

長谷川先生

皆が自由に発言できるような雰囲気作りを心がけるようにしています。相談している時だけではなく、普段からイーブンな関係を作っておかないと、上司に意見をいえないのは会社も病院も同じです。当科がもう一つ大切にしているのは、スタッフ全員で一人の患者さんを診るということです。もちろん担当医はいますが、診ている患者さんの診療の責任は担当医ということになれば、担当医は孤立してしまいます。そうならないよう、当科で診ている患者さんは、皆で共有するようにしています。

ADPKD診療で大切にしていること

まずは病気のことを知ること

小暮先生

先ほども少しお話ししたのですが、病気のことをよく知ってもらうよう普段の診療では心がけているつもりです。同じ病気の方でも、自分の病気について詳しく知らないばかりに必要な検査を受けていない患者さんもいらっしゃるので、病気のことをよく知ってもらうことが大切です。特にADPKDの患者さんは早く治療を始める方がよいので、病気のことで気になることがあれば、早く受診をして欲しいと思います。

心と情報の交通整理が臨床心理士の役割

小林先生

健康カウンセリングでは、医師から受けた病気の説明を患者さんはどのように理解しているのかを確認するようにしています。何がわかって何がわかっていないか、何を心配しているのかを確認して、医師との間をつないだり、交通整理を行うのが私の役割だと思っています。病気であっても、よりよく生きられるように、お手伝いできればいいなと思っています。

ライフスタイルと相談してできることから

長谷川先生

よく、命と仕事とどちらが大事かということを医師は口にしがちなのですが、それは本来比べられるものではなく、どちらも大事です。今、働き盛りの人、子育て中の人、受験生、人によって違いますが、治療が大事であるように、今取り組んでいることも同じくらい大事なのです。ですから、患者さんのライフスタイルにあわせて治療を考えなくてはなりません。ADPKDの治療は患者さんの生活にかかわる部分が多いので、ご自身の生活を考えて、自主的に、できる範囲で治療に取り組んでいって欲しいと思います。

埼玉医科大学総合医療センター 腎・高血圧内科 教授 長谷川 元 先生

経歴

  • 1986年東京慈恵会医科大学卒業
  • 1988年虎の門病院腎センター内科医員
  • 1991年カリフォルニア大学サンフランシスコ校
    分子腎生理研究室研究員
  • 1994年東京慈恵会医科大学内科学講座第2 助手
  • 2002年埼玉医科大学総合医療センター第4内科学 講師
  • 2004年埼玉医科大学総合医療センター第4内科学 助教授
  • 2014年埼玉医科大学医学部 教授
    (総合医療センター腎・高血圧内科学担当)
埼玉医科大学総合医療センター 腎・高血圧内科 助教 小暮 裕太 先生

経歴

  • 2009年埼玉医科大学医学部卒業
  • 2009年埼玉医科大学総合医療センター 初期研修医
  • 2011年埼玉医科大学総合医療センター 腎・高血圧内科 助教
  • 2015年虎の門病院腎センター 内科
  • 2016年埼玉医科大学総合医療センター 腎・高血圧内科 助教
埼玉医科大学総合医療センター メンタルクリニック 講師・心理士 小林 清香 先生

経歴

  • 2000年早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了
  • 2000年国立精神・神経センター精神保健研究所 流動研究員
  • 2003年東京女子医科大学 神経精神科 臨床心理士
  • 2015年国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 社会精神保健研究部 社会福祉研究室長
  • 2016年埼玉医科大学総合医療センター メンタルクリニック 特任講師
  • 2017年同 講師

2018年7月作成
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