腎臓内科を選んだ理由
「腎臓病になっても進まないようにすればよい」と教えられ決意
目立たないけれども、大切な臓器に引かれて
日髙先生
私は内科医になりたかったのですが、中でも外科ではあまり扱わないような病気を扱う科に行きたいと考えていました。すなわち、血液内科や腎臓内科などがこれに該当すると思いますが、1年目の研修医の時に小林修三先生から腎炎の患者さんの糸球体を電子顕微鏡で見せていただいたときに、その構造の美しさに感動して腎臓に興味を持ちました。また、腎臓は目立たないけれども、体の中でとても大切な働きをしている臓器だと思っていましたので、そういう臓器を勉強したいと考えたのもきっかけの一つです。
湘南鎌倉総合病院の腎臓病診療の特徴
「のう胞腎外来」を設立して、理解を深めていただく
日髙先生
嚢胞腎を積極的に診療するようになったのは、ドイツに留学していた時の研究テーマが嚢胞腎だったことがきっかけです。その後、こちらの病院に勤務することになり、嚢胞腎の患者さんも時々診療していました。やはり病気のことを詳しく勉強すると、よりその患者さんに共感できるというか、なんとかしたいという気持ちが強くなりましたね。その思いが強くなって専門外来をつくりたいと考えるようになりました。小林先生に相談したところ、ご快諾いただき、2014年に「のう胞腎外来」をスタートさせました。「のう胞腎外来」を立ち上げることによって、嚢胞腎に詳しくない他科の先生にも興味を持っていただけるようになり、患者さんの早期受診につながっています。
腎臓病にならない・腎臓病を早期に発見する・腎臓病を進めない
小林先生
「腎臓病にならない・腎臓病を早期に発見する・腎臓病を進めない・腎臓病で命を落とさない」をモットーに日々診療に励んでいます。
まず、「腎臓病にならない・腎臓病を早期に発見する」ということから、腎臓病教室を開催するなどして、啓発活動を積極的に行っています。腎臓のお話をして、早期発見の重要性や、「慢性腎炎は改善する」という強いメッセージを皆さまに送ることができるようになりました。
また、何より透析に至らせない医療を1999年以来、腎機能改善外来として積極的に展開してきました。さらに慢性腎臓病の進行により透析が必要になった場合に備えて、血液浄化センターを開設しています。ここでは、いずれの方々にも「その人の生き様に沿った治療」を提供することをモットーに、おのおのの患者さんに適した、透析をはじめとする血液浄化療法を行っています。


医療におけるコミュニケーションの大切さ
ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の患者さんは家族に理解してもらうことが重要
日髙先生
ADPKD/多発性嚢胞腎と付き合っていくには、まずは病気をよく知ることが大切だと思います。ADPKD/多発性嚢胞腎と診断された患者さんに対しては、まずは言葉でよく説明して、ADPKD/多発性嚢胞腎について説明された冊子をお渡しするようにしています。そして、定期的な管理が必要なことを伝えるようにしています。
そしてもう一つ大切なことは家族に理解してもらうことでしょうか。腎不全が進行し、なんらかの腎代替療法が必要になるとき、腎移植のドナーがいらっしゃればそれが最も良い治療法だと思いますが、ご自分からは配偶者や兄弟の方に腎移植のドナーになっていただくお願いをしにくいようです。ただ、実際にご家族も呼んで腎移植について説明をしてみると、ご家族はけっこう提供の意思を示してくれたりするのです。私の患者さんでも母親から腎臓の提供を受けた方がいるのですが、提供されたお母さんが子どもの役に立ってよかったと言われているのを聞くと、話すように勧めてよかったなと思います。
ご家族との話をスムーズに進めるためには、外来に時々一緒に来てもらうことも大切です。病気のことを知っていただくのはもちろんですが、一緒に来ていただいて、時間を作っていただける家族関係があることを知ることが大切だと思っています。
「思いやり」の考え方を医療の原点に
小林先生
医学の進歩により多くの病気は治療可能になりましたが、透析治療のように、治療を行っても治療前と同様の生活が難しい病気も存在します。特に心の回復は難しく、残念ながらいまだ心が癒されない多くの方々がおられます。癒すためには心地よさが必要です。死ぬか生きるかではなく、不全治癒が増加した今日ほど、caringという「思いやり」の考え方を医療の原点に据えて考えていかなくてはならないと思います。ところが実際には、患者さんの立場を考えず、十分な説明がなされない診療が多く、医療者側に対する患者さんの不満や不信感は大きくなってきています。その最大の原因はコミュニケーション不足です。
患者さんと医師が同等の立場で「癒しの医療」を目指す「癒しの医療を考える会」
小林先生
コミュニケーション不足により「癒されない医療」で苦しむ患者さんを例に、この問題をある医学雑誌で取り上げたところ、多くの方から賛同をいただきました。これをきっかけに、患者さんと医療従事者との関係を同等の立場で医療における「癒し」の実現を目指すために設立されたのが「癒しの医療を考える会」です。
当会では、「先進的な治療により治癒しても、思いやりがなければ心は癒されない。今求められる医療は癒しを求めて医療者と患者様が一体となり、病気を克服していくこと」を理念にさまざまな文化活動を通じてこの問題を考えています。特に、音楽の持つ、人に勇気と希望を与える効果は絶大です。現在は、湘南を活動の中心とし、年に2回クラシックコンサートと医療講演をセットにしたイベントを開催し、皆さまへ「癒し」を体感いただいております。
内科と外科で協力して行う腎移植
内科医と外科医が一致団結して、理想の腎臓病治療を提供
小林先生
当院は残念なことに腎移植への参入が遅れていましたが、2012年に初めて腎移植を実施しました。現在、当院の腎移植は、腎移植内科と腎移植外科が共同で診療にあたっています。腎移植に内科が積極的に関わる体制を作ることにより、腎移植の実施や周術期、術後の管理に至るまで、移植された腎臓が長期にわたり機能するよう診療に携わっています。
また、2017年に腎免疫血管内科、血液浄化部、腎移植外科、腎移植内科を統合した腎臓病総合医療センターが出来上がりました。当センターでは、内科医と外科医が一致団結し、患者さんのためになる無駄のない安全で最高の腎泌尿器系の総合医療を提供しています。
湘南鎌倉総合病院における腎移植の実際
日髙先生
ADPKD/多発性嚢胞腎の診療にあたっては、定期的に検査を行い、変化を見逃さないようにしています。治療が必要で、お薬で治りそうならばお薬を、透析、移植が必要になってきたら、さりげなくご家族のことなどをお伺いして、腎臓の提供をお願いできそうな家族がいるかなどを確認することもあります。
看護師などに相談している患者さんもおられるので、看護師に協力してもらうこともあります。移植の話が具体的になってくると、レシピエントコーディネーターや薬剤師、栄養士、理学療法士などチーム全体で診療に取り組んでいます。
当院では、最初は腎移植外科が腎移植のすべてを行っていたのですが、現在は、腎移植前後の管理は腎移植内科が行い、外科の先生は手術に専念していただくようにしています。移植を受けられる患者さんは、移植するまで内科の方で診ているので、最適なタイミングで移植を受けられているのではないかと思います。また、移植後も継続して診ることにより、移植した腎臓の状態を良好に保つことも可能です。そして、何よりもずっと同じ医師が担当しているので、すべてわかってもらえているという安心感を与えられているのではないかと思います。


患者さんを深く診ています
常に患者さんのことを考えて診療しています
小林先生
日髙先生は患者さんに優しく、病気だけではなく、患者さんの暮らしや家族のこともよく見ておられる先生です。ADPKD/多発性嚢胞腎の患者さんは、遺伝性の病気で経過も長いこともあり、気持ちの負担も大きいのですが、そうした患者さんに寄り添って、ずっと診ていってあげられる先生だろうと思います。ADPKD/多発性嚢胞腎の患者さんとそのご家族にとって、とても心強い主治医なのではないでしょうか。
全身を診ることを近くで学んでいます
日髙先生
小林先生は回診等でご一緒した時、私たちが診ているのとは異なる視点でコメントされるので、本当に勉強になっています。また、患者さんの生活や、病院内で困っていることについてよく気づいておられ、まさに患者さんを診る、全身を診るということを教えていただいているように思います。医学以外の部分でも、音楽など文化的な造詣が深く、本当に尊敬できる先生です。
前向きに病と向き合って
日髙先生
ADPKD/多発性嚢胞腎は遺伝性の病気ですので、患者さんはいろいろと大変な思いをされていると思います。一人で悩まず、病気を知ることによって逆に安心できるのではないでしょうか。ADPKD/多発性嚢胞腎に関しては、世界中で研究が進んでいますし、治療法も開発されていますので、あまり怖がらずに毎日を楽しく生活していただければと思います。
小林先生
「今、ここで、私がなぜ?」という思いにかられる気持ちはよくわかります。どんな人も自分の病気が重症化するということはとてもつらいことで、本当に希望も失いそうになるかもしれません。
それでも、あの太陽を明日見ることができたら、あの青い空や、あの大きな青い海を見ることができたらと、前向きに自分が生きている今を大切にできれば、本当に素晴らしいことです。そのような思いでなんとか前向きに、大きく美しいものを見て、病に向かって、そして受け入れて、冷静に、そして心豊かに向き合っていただきたいと思います。


経歴
- 1980年浜松医科大学卒業、同大学第1内科入局
- 1986年浜松医科大学大学院博士課程卒業
- 1987年文部教官第1内科 助手
- 1988年テキサス大学サンアントニオ校病理学 客員講師
- 1999年湘南鎌倉総合病院 副院長
- 2012年湘南鎌倉総合病院 腎臓病総合医療センター長
- 2017年湘南鎌倉総合病院 院長代行(兼任)


経歴
- 1985年浜松医科大学医学部卒業、同大学第1内科入局
- 1986年大森赤十字病院内科
- 1992年帝京大学大学院医学研究科 第一臨床医学専攻博士課程卒業、帝京大学付属病院内科 助手
- 1999年ドイツ・ハイデルベルク大学 解剖・細胞生物学研究所 I 研究員
- 2002年帯津三敬病院 内科部長
- 2008年湘南鎌倉総合病院 血液浄化部部長・血液浄化センター長
- 2017年湘南鎌倉総合病院 腎臓病総合医療センター 腎移植内科 部長
2019年8月作成
SS1908542
小林先生
学生時代に透析クリニックでアルバイトをしていたこともあり、腎不全を治療したいと考えていました。腎不全の治療といえば腎移植だと思っていましたので、泌尿器科に進むつもりだったのです。
ちょうどその頃、その後の恩師となる本田西男先生に、どこの科に行くのかと尋ねられ、「腎不全を治したいので泌尿器科に行きます」と言ったところ、移植をしなくてすむように、腎臓病にならないようにすればよい。もし腎臓病になっても進まないようにすればよいからと言われ、それはもっともだと思い、腎臓内科に進もうと決意したのが腎臓内科を選んだ理由です。
総合的な内科診療にも興味があり、特に腎臓内科は全身を診る科ということで、その時出会った本田先生の第1内科に入って良かったと思います。