第2回 東京都在住Tさん

多発性嚢胞腎(ADPKD)の新しい治療では多尿などの心配もありますが、リズムができてしまうと、特に大変さは感じません。〝案ずるより産むがやすし〟で、挑戦してみるべきだと思います。

多発性嚢胞腎(ADPKD)の新しい治療では多尿などの心配もありますが、リズムができてしまうと、特に大変さは感じません。〝案ずるより産むがやすし〟で、挑戦してみるべきだと思います。

長い間透析治療を行っていたお母様の姿を見ていたTさんは、多発性嚢胞腎(ADPKD)の新しい治療薬が誕生したことを知り、すぐにでも服用を始めたいと思ったそうです。建築士として働くTさんの、病気や薬との付き合い方についてお話を伺いました。

長い間透析治療を行っていたお母様の姿を見ていたTさんは、多発性嚢胞腎(ADPKD)の新しい治療薬が誕生したことを知り、すぐにでも服用を始めたいと思ったそうです。建築士として働くTさんの、病気や薬との付き合い方についてお話を伺いました。

Tさんの代表的な一日

他にも水筒などを持ち歩き、こまめな飲水を心掛けています。

Q どのような経緯で、いつごろADPKDであることを知りましたか?Q どのような経緯で、いつごろADPKDであることを知りましたか?

私が29歳の時、母が突然くも膜下出血で倒れて救急搬送されました。何とか一命は取り留めましたが、入院中に全身の検査をしてみると腎臓に異常が見つかり、ADPKDであると診断されたんです。私には兄が2人いるのですが、先生から「ADPKDは遺伝性の病気なので、息子さんたちにも検査をお勧めします」と言われて、すぐに検査を受けました。結果は、3人ともADPKDであるとの診断。聞いたこともない病気だったため、正直戸惑いました。

Q お母様は、腎臓の病気について話されることはなかったのでしょうか?Q お母様は、腎臓の病気について話されることはなかったのでしょうか?

思い返してみると、母方の祖父と祖母が50代の頃には腎臓を悪くして人工透析をしていたという話を聞いたことがありました。また、私の叔父がくも膜下出血で亡くなっていました。40代で、まだ若かったことを覚えています。おそらく、皆ADPKDだったのかもしれません。母の血圧は高かったようですが、特に治療を行っていませんでした。ADPKDという病気は知らなかったと思いますし、母自身、腎臓が弱っていたことに気付かないままだったようです。くも膜下出血で救急搬送された後は、母はすぐに透析治療を始めました。しかし、10年ほど経った2014年に、残念ながら息を引き取りました。

Q サムスカの服用に至った経緯をお聞かせください。Q サムスカの服用に至った経緯をお聞かせください。

ADPKDと診断されてから10年ほどは特に治療薬もなく、血圧のコントロールを行うだけでした。しかしある時、先生から新しい治療薬の治験が始まっていると教えていただき、本当にうれしかったことを覚えています。母が10年ほど透析治療に通っている姿を見てきたため、やはり負担も大きく、仕事を持つ身としてはなかなか難しい状況になると感じていました。そのため、病気の進行を遅らせる可能性があるなら、すぐにでも治療を始めたいと思いました。
サムスカを飲むには条件がありましたが、私はその条件を満たしていたため、2014年6月より服用を開始しました。先生からは、服用に際して頻尿や尿量の増加をはじめとした副作用についても細かく教えていただき、分かりやすい冊子などもいただきました。私はどうしても人工透析の導入を先延ばしにしたかったため、躊躇なく治療の道を選びました。妻もぜひやった方がいいと背中を押してくれました。

Q 治療を始めた頃のことについてお聞かせください。Q 治療を始めた頃のことについてお聞かせください。

まずは、3日ほど入院してサムスカの服用を開始しました。実は、初日は尿の量にびっくりしてしまったんです。1日目は一晩で8リットルほどの尿が出ました。大人の排尿量の平均は1日1〜1.5リットルと言われていますから、およそ8倍近くの量です。だいたい20分おきにトイレに行かないと間に合わず、これでは日常生活に戻っても仕事ができず、夜は眠ることができないのではないかと不安になりました。しかし、体が反応しているということは薬が効いている証拠だと考え、まずは3日間挑戦してみようと気持ちを奮い立たせました。私の場合、意外にもすぐに体が慣れ、トイレの頻度も1時間に1回程度となり、トイレのコントロールに関してはすぐにスムーズにいくようになりました。

Q 現在の生活についてお聞かせください。お薬の服用など日常生活で特に注意されていることはありますか? Q 現在の生活についてお聞かせください。お薬の服用など日常生活で特に注意されていることはありますか?

現在は、午前中は朝8時、午後は夕方5時にサムスカを服用しています。私は建築士の仕事をしており、お客様のもとを訪ねて打ち合わせをすることも多いのですが、朝の服用によって尿の量が多くなる午前中は、どうしてもトイレのタイミングが難しくなります。しかし、打ち合わせの前にコンビニエンスストアや喫茶店などに立ち寄ってトイレを済ませることができれば、仕事への影響も少なくなります。営業職で移動が多い人なども、ちょっとした工夫で問題は解消できるのではないでしょうか。午後の服用は夕方5時に設定しています。それ以上遅い時間になると夜間頻尿の心配があるためです。リズムができてしまうと、特に大変さは感じませんので、“案ずるより産むがやすし”で挑戦してみるのがよいと思います。

Q 水分摂取の点で特に注意されていることはありますか?Q 水分摂取の点で特に注意されていることはありますか?

私はもともと水を飲むのが苦ではなかったので、サムスカ服用後の水分摂取も問題なくできました。むしろ、治療開始が初夏だったので、喉が渇いてどんどん水を飲めたぐらいです。ただ、水ばかりだと飽きてしまうので、ノンカフェインである麦茶を飲むようにしています。自宅の冷蔵庫には、妻が毎日大量の麦茶を作っておいてくれています。さりげないサポートに、いつも感謝ですね。

Q その他、日常生活で心掛けていることがあればお教えください。Q その他、日常生活で心掛けていることがあればお教えください。

食事の面ではあまり気を付けていることはありませんが、40代になり、同じ年代の男性たちと同じように高血圧やメタボを心配するようになりました。以前は好きなものを好きなように食べていましたが、最近では、野菜を多めに摂るようにしたり、玄米を取り入れたり、揚げ物を減らしたりなど少しずつヘルシーにしています。病気のための努力というよりも、年齢を重ねて自然な流れで食生活が変化してきた、という感じですね。
また、3年前からウエイトトレーニングを続けています。メタボ予防のためもありますが、40歳手前で“このまま老いていくのは嫌だ”と感じたことが一番のきっかけです。新しいチャレンジをして何かを成し遂げるのは、気持ちが前向きになります。ウエイトトレーニングは筋肉がついてくるという意味で、結果が分かりやすいのもいいですね。心肺機能が上がり、免疫力も強化されるので、中高年の方にもお勧めしたいです。

Q 治療を続けていくにあたり心掛けていることを教えてください。Q 治療を続けていくにあたり心掛けていることを教えてください。

治療に対しても、日常生活でも、あまり無理をしないで病気や薬と付き合っていきたいと思っています。仕事が忙しくなると夕方5時のサムスカの服用を忘れてしまうことがあるため、アラームをかけるようにしています。また、旅行や団体行動などで頻繁にトイレに行くことが難しい時には周囲に迷惑をかけてしまうことも考えられるため、先生と相談しながら臨機応変に対応するようにしています。長く付き合う病気ですから、治療や日常の決まりごとがストレスになってはいけない。時には楽観的になって、病気と共にのんびりと進んでいきたいですね。

記者の感想

“何かにチャレンジしたい”という思いで、3年前からウエイトトレーニングを始めたというTさん。スポーツ選手のように引き締まった体と、はつらつとして明るい笑顔は、“病気に負けない”という強い心が生み出したものとも言えそうです。
心の支えとなるご家族や共に向き合うご兄弟とのエピソード、今後の夢などを「わたしのADPKD体験談」でも紹介しています。ぜひご覧ください。

2017年5月改訂
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