第14回 東京都在住Aさん

サムスカの服用を開始できたことで安心感が生まれ、ADPKD以外のことを考えられるようになりました。

サムスカの服用を開始できたことで安心感が生まれ、
ADPKD以外のことを考えられるようになりました。

家族歴がなかったことから、ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の診断が長い間なされなかったAさん。サムスカの服用に至るまでにも、さまざまな壁がありました。しかし、自らの行動力で信頼できる病院に巡り合い、現在は仕事や私生活に大きな影響はなく、順調に治療を続けています。

家族歴がなかったことから、ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の診断が長い間なされなかったAさん。サムスカの服用に至るまでにも、さまざまな壁がありました。しかし、自らの行動力で信頼できる病院に巡り合い、現在は仕事や私生活に大きな影響はなく、順調に治療を続けています。

Aさんの代表的な一日

たとえ働き方を変えることになってもADPKDの治療としてできることは全てしたかった。

武藤先生

Aさんは2020年5月に順天堂医院を受診して、サムスカでの治療をすぐに開始しました。しかしそこに至るまでには、さまざまな情報を集めたり人脈をたどったりするなどご自身で動いて、ようやく私の元を訪ねてくださったとお聞きしています。

Aさん

私は家族内にADPKDと診断された者がいなかったこともあり、高血圧の治療で生活圏内のクリニックに通っていた間はADPKDと診断されていませんでした。クレアチニン値が1.9mg/dLまで上がったところである大学病院を紹介されたのですが、そこでもしばらくは診断がつかず、ADPKDと告げられたのは5カ月ほど経った頃でした。

武藤先生

診断後も治療開始はなされていなかったと伺いました。

Aさん

私は医薬品関係の仕事をしていたことから、サムスカの存在を知っていました。そのため、当時の主治医に処方してもらえないか尋ねたのですが、適応外と言われてしまったのです。「自分はサムスカを使って治療をすることができない」と残念な気持ちになりました。

武藤先生

一般社団法人 日本腎臓学会でガイドラインをつくった2017年当時のことですが、診断や薬の使い方に関してガイドラインが周知しておらず、各病院での見解がわかれていたようでした。一方で、インターネットでさまざまな情報が入手できるこの時代、患者さんはご自身の問題として疾患について詳細に勉強されていますから、医師に対して自ら治療の選択肢を提案する方も増えています。病院側と患者さんのギャップが埋まらない点は私たち医療人にとっての大きな課題であり、さらに啓発を続けていく必要性を強く感じています。

Aさん

私もインターネットでADPKD.JPに専門家のコラムがあることやADPKD治療を受けられる施設の検索ができることにたどり着き、わらにもすがる思いで先生の元を訪ねたことを覚えています。

武藤先生

当院を受診された段階ですでにサムスカの適応内で、服用をすぐに開始した方がよいという状況でした。ご自身でも処方を望んでいらっしゃいましたが、服用に当たっての不安などはありませんでしたか。サムスカに対する反応の強さは人それぞれですが、尿量が増えるとひと口に言っても、トイレが2時間に1回程度の人もいれば、1時間に1回以上行かずにはいられないという人もいます。Aさんは会議や出張なども多い多忙なご職業とお聞きしていましたから、服用までには葛藤があったのではないでしょうか。

Aさん

病気に対する強い不安もあり、すぐにでも服用したいと思っていました。ただ、尿量や飲水量の増加についても調べて知っていたので、以前のような生活はできなくなるだろうなという覚悟はしていました。昨今は状況も変わっていますが、以前は3時間以上の長い会議もあり、公共交通機関を使っての出張もありました。しかし、それらが難しくなっても体には代えられません。働き方や暮らし方を変えることになっても、治療を優先したいと考えていました。

先生と相談しながら治療を開始することで、スムーズに治療に慣れることができた

武藤先生

サムスカの服用を開始しておよそ1年ですが、服用以前の印象と比べていかがですか。

Aさん

トイレの回数は確かに増えましたが、1~2時間のリモート会議なら切迫感もありません。小学生の子どもがいますが、家族とのイベントや外出でもトイレの回数に邪魔されるようなこともないですね。

武藤先生

服用前にお仕事やライフスタイルに関してお話は伺っていました。腎機能も加味して、反応が強く出すぎないよう、最初は減量して始めさせていただきました。徐々に体を慣らすことで反応も緩やかで済み、治療も継続しやすくなります。日々の暮らしに支障がないようコントロールもうまくいっていますね。水をたくさん飲まなければならないことは患者さんにとって大きなストレスになります。せっかく治療が開始できても、仕事や家庭に悪影響を及ぼしては本末転倒だと私は考えています。そのため、体が慣れてきたタイミングを十分に話し合って、今は用量を増やし始めていますが、今後も少しずつ様子を見ながら増やしていければよいですね。

Aさん

難しかったことを1つ挙げるとすれば、暑い夏場に比べて冬は必要な量の水を飲み切れなかったことです。そのため、飲水量がしっかりと分かり、足りなければ頑張って飲めるように、会社でも家庭でも2Lのペットボトルからグラスに注いで水を飲むようにしています。以前は500mLのペットボトルが飲みやすいと思っていましたが、飲んだ量を把握するのが面倒だし、デスクに空のペットボトルを並べておいても間違って捨ててしまい、飲水量が分からなくなることもありました。その点2Lのペットボトルだと分かりやすいので、会社のデスクの下にも通信販売で買った2Lのミネラルウォーターを箱ごと置いています。今では1日に5~6Lはしっかり飲めています。

武藤先生

食事に関してはいかがですか。ADPKDの場合、血圧が上がるのは良くないことですが、これは疾患に関わらず中高年になれば誰にでも共通することです。患者さんのホームページなどを拝見すると、徹底的な食事制限を行っている方も見受けられます。ただし、サムスカの服用を開始すると厳し過ぎる塩分制限が低ナトリウム血症につながる恐れもあります。そうした場合には、今よりも塩分を摂るよう指導する場合もあるため、少なくともAさんの場合は“普通の健康的な食生活”で十分だと思います。

Aさん

そう言っていただけると心が軽くなります。以前は濃い味が好みでしたが、年齢相応に生活習慣病を予防する食生活を心掛けるようにしています。暴飲暴食はしませんが、先生のおっしゃるようにストレスになるほどの制限はせず、50歳前後の男性に求められる普通の健康的な食生活を心掛けようと思います。

武藤先生

Aさんがサムスカの治療を続けておられるモチベーションはどのようなことでしょうか。

Aさん

“挑戦できるようになった”ということでしょうか。武藤先生と出会い、そしてサムスカの服用を開始できたことで、以前と比べて安心感が生まれ、ADPKD以外のことを考えられるようになりました。また、私には小学生の子どもがおり、検査はまだ受けさせていませんが、子どもたちの世代にはサムスカが最初からある上に、新たな治療が生まれるかもしれないという期待もあります。良い医師と出会い、正しい治療が受けられるということは私たち患者にとっての希望の光です。今後さらに、ADPKDという疾患が周知され、診断と治療がスムーズに進み私のように少しでも安心できる患者さんが増えることを願ってやみません。

~取材を終えて~武藤 智先生

Aさんを見ていると、ADPKDとその治療に関する情報が得られる場が非常に重要であることを思い知らされます。Aさんはそれらを駆使し、積極的に動いて私の元を訪ねてくださいました。しかし、患者さんの行動力だけに頼っているわけにはいきません。全国の病院と医師に、ADPKD治療についてさらに啓発していく必要性を痛感します。また、Aさんのように治療に前向きに取り組んでいる患者さんの思いを発信することは非常に重要です。患者さんにとって参考になるだけでなく、医療人にとっても患者さんがどのような思いでこの疾患に向き合っているかを知るきっかけになります。私たちも患者さんの思いに寄り添えるよう、日々学んでいかなければいけないと感じました。

2021年4月作成
SS2104264